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横浜家庭裁判所 平成4年(少ロ)1014号 決定 1992年10月12日

本人 H・M(昭和47.9.20生)

主文

本人に対し、金12万円を交付する。

理由

1  当裁判所は、平成4年9月18日、本人に対する平成4年少第6467号毒物及び劇物取締法違反、大麻取締法違反保護事件において、送致された2件の事実のうち、毒物及び劇物取締法違反の事実を認定した上、本人を横浜保護観察所の保護観察に付する旨の決定をするとともに、大麻取締法違反の事実については、その事実が認められないことを理由として、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。

そして、同事件の記録によれば、本人は、上記大麻取締法違反の事実と同一の被疑事実に基づき逮捕勾留され、更に、上記大麻取締法違反の事実と上記毒物及び劇物取締法違反の事実を送致事実として上記保護事件が当庁に送致された際、観護措置決定を受けて少年鑑別所に収容されたことが認められる。

2  そこで、本人に対する補償の要否について検討する。

上記保護事件の記録によれば、本人は、平成4年8月14日に逮捕され、引き続き同月15日から同月26日まで勾留された(勾留期間延長あり)上、同日上記保護事件が当庁に送致されるとともに観護措置決定を受けて少年鑑別所に収容され、審判期日である同年9月18日に退所したことが認められる。

そして、本人に対する上記身柄拘束のうち勾留によるものについては、上記1のとおり、事実が認められないことを理由として不処分となった上記大麻取締法違反の事実と同一の被疑事実に基づくものであり、また、少年の保護事件に係る補償に関する法律(以下「法」という。)3条各号に規定する事由は認められない。

しかし、まず、上記身柄拘束のうち観護措置によるものについては、上記1のとおり、上記大麻取締法違反の事実に加えて、当裁判所が事実を認定した上、本人を保護観察に付した上記毒物及び劇物取締法違反の事実にも基づくものであって、上記記録により認められる同事実の態様、本人の当時の生活状況、前歴等に鑑みれば、同事実だけでも観護措置をとる必要があったことが明らかである。

次に、上記身柄拘束のうち逮捕によるものについては、上記1のとおり、上記大麻取締法違反の事実と同一の被疑事実に基づくものであるけれども、上記記録により認められる上記毒物及び劇物取締法違反の事実の内容に鑑みれば、上記大麻取締法違反の事実で本人が逮捕されなかったとしたならば、上記毒物及び劇物取締法違反の事実で本人を逮捕する必要があったというべきである。

したがって、上記身柄拘束のうち勾留に基づく身柄拘束日数12日については、法2条1項により補償をすることが必要であるけれども、観護措置及び逮捕に基づく各身柄拘束については、法3条2号に該当するので、同条本文により本人に対し補償の全部をしないこととする。

3  次に、補償金額について検討する。

上記保護事件の記録によれば、本人は、上記逮捕当時、有限会社○○組において鳶職として働いており、月収が手取りで約30万円であったこと、本人は上記逮捕時から一貫して上記大麻取締法違反の事実を否認していたことが認められ、これらに上記記録により認められる本人の年齢、生活状況等諸般の事情を併せ考慮すると、本人に対しては、1日1万円の割合による補償をするのが相当である。

4  よって、本人に対し、上記2のとおり補償の対象となる身柄拘束日数12日について、上記割合による補償金合計12万円を交付することとし、法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 大野正男)

〔参考〕 (横浜家 平4(少)6467号、毒物及び劇物取締法違反、大麻取締法違反保護事件、平4.9.18決定)

主文

少年を横浜保護観察所の保護観察に付する。

本件送致事実中大麻取締法違反の事実については、少年を保護処分に付さない。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、A及びBと共謀の上、平成4年8月14日午前6時30分ころ、横浜市○区○○町×丁目××番地先路上に停車中の自家用普通乗用自動車(登録番号・○○××○××××)内において、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって政令で定めるトルエンを含有するシンナー101ミリリットル(茶色の瓶2本入り)を、みだりに吸入する目的で所持したものである。

(法令の適用)

毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3、同法施行令32条の2

(処遇の理由)

1 少年には、観護措置等で身柄を拘束されたことを契機として、本件非行について十分な反省が見受けられるものの、少年の非行の態様、前歴及び生活状況に加えて、今後の職場における交友に不安が残ることを併せ考慮すると、相当期間専門家による指導を受けさせることが、少年の健全な育成を期するために必要である。

2 本件送致事実中大麻取締法違反の事実は、「少年は、A、Bと共謀のうえ、みだりに、平成4年8月14日午前6時30分ころ、横浜市○区○○町×丁目××番地先路上に駐車中の自家用普通乗用自動車(○○××○××××号)内において、赤色紙製箱入り乾燥大麻少量を所持したものである。」というものであるが、少年は、逮捕時から審判時に至るまで、一貫してこの事実を否認しているので、以下検討する。

本件法律記録によれば、上記大麻(以下「本件大麻」という。)は、平成4年8月14日、上記自動車内のグローブボックスから発見されたものであり、少年、A及びBは、同日、上記大麻取締法違反の事実を被疑事実として現行犯逮捕されたこと、少年は、捜査段階を通じて、一貫して本件大麻が上記自動車内にあることは知らなかった旨供述していること、Aは、逮捕時においては本件大麻の所持を否認していたものの、同月17日、本件大麻が自分の物であることを認め、同月18日には、本件大麻は自分が上記グローブボックスに入れていたものであり、少年及びBにはその事実は一切話していなかった旨供述するようになり、その供述は以後捜査段階を通じて変わらなかったこと、Bは、本件大麻についてはその存在を全く知らなかった旨捜査段階を通じて供述していることが認められる。

一方、本件法律記録及び少年の当審判廷における供述によれば、同月13日、少年、A及びBが新宿にシンナーを買いに行く途中、上記自動車内において、3人で大麻を吸引した事実が認められるけれども、その大麻は本件大麻とは別のBの所持していたものであり、Bに誘われて少年及びAも吸引したものであって、この吸引の事実から、少年が本件大麻の存在を認識していたことを推認することはできない。

結局、本件法律記録を精査しても、他に、本件大麻の存在について認識がなかった旨の少年の供述並びにそれに沿うA及びBの各供述を覆し、上記大麻取締法違反の事実について合理的な疑いをさしはさまない程度に証明するに足りる証拠を見出すことはできないから、上記大麻取締法違反の事実については、少年に非行がないことになる。

3 よって、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して少年を横浜保護観察所の保護観察に付することとし、本件送致事実中大麻取締法違反の事実については、少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととして、主文のとおり決定する。

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